「ポップコーンをほおばって」田家秀樹著を読んだ。

このタイトルを見て、誰のことを書いた事かわかる方もいると思う。
本書は以前に此処で紹介をした稲垣潤一と同い年ながら、早々と1974年にプロデビューをした甲斐バンドの伝記である。
稲垣潤一が仙台で箱バンとしての日々を過ごしていた時に、甲斐よしひろは既に武道館を満員にしていた。

音楽家や小説家や役者の価値は、決して人気だけでは計れない。
100万枚のアルバムを売るアーティストと、
5,000枚のアルバムを売るアーティスト。
そこに20倍の差があるとは言えない。
何故なら聴き手にとっては売上枚数は全く関係がないから。
しかしこれがビジネスにおける価値となると、売れないより売れた方が良いという単純な話にすり替わる。

ポップコーンをほおばって

で、甲斐バンドのドキュメンタリー。
この「ポップコーンをほおばって」は、
音楽ライターである田家秀樹という作者が、本人のインタビューはもとより様々な関係者に綿密に取材をし、
彼らのデビュー前から解散直後までを書いている。

博多から東京へ出てきて安いアパートでの共同生活から始まり、
デビューライブを迎えたのに観客がいないという屈辱を味わい、
1975年にリリースしたセカンド・アルバムから徐々に動員が増え、やがて武道館や国技館や花園ラグビー場を満員にする。
そして人気絶頂のまま解散を決意して自らピリオドを打つ。

その成長過程で所属事務所を出て独立、自分たちでスタッフを抱えてマネジメントを行う。
つまり音楽制作もライブ制作も宣伝も、全て自分たちで稼いだお金でコントロールする体制を確立した。
これは、しっかりと売れていないと出来ない事だ。
そしてまた、アーティスト自身が確固たる信念や方向性を持たないと、人気も実力も維持出来ないシステムだ。
何しろスタッフは雇用主としてのアーティストに、なかなかノーと言えない雰囲気が出来てしまう。
※これはどんな企業でもワンマン社長にありがちな話だが…。

本書が面白かったのは、著者がスタッフへもしっかりと取材をしている事。
例えばマネージャーの女性がどうして音楽業界に入ったのか?
ツアースタッフは学生時代にどんな夢を見ていたのか?
レコード会社の宣伝担当は、甲斐バンドに携わる辞令を受けてどうしたか?

そういうサイド・ストーリーが適度な寄り道として紹介され、
甲斐バンドという大きなプロジェクトを構成している様々な人生が、
時間という縦糸と交差して一枚のタペストリーになっている。

それほど甲斐バンドというアーティストや楽曲を知らなくても、
プロの書き手ならではのストーリー展開はグイグイとページをめくらせる。
もちろん単なる客観的なジャーナリズムでは踏み込めない、
アーティストへの尊敬と愛情がないと表現できない内容も魅力的だ。
言い換えれば読み終わると彼らの当時のライブを観たくなる。
きちんとアルバムを聴きたくなる。

【本日の一曲】 「ポップコーンをほおばって」 by 甲斐バンド


デビューのきっかけとなった曲ながら、シングルにはなっていないんですね。
でも当時は割りとラジオで聴いた記憶があります。


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