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村上春樹「パン屋を襲う」

音楽に至っては、名曲のカバーだけではなく、セルフ・カバーという場合もある。
映画やドラマでも、そもそもが小説や漫画に原作をおくこと自体がカバー。
あるいはリメイクと言える。(あっ、演劇もそうですね)

一方で視点を変えると古典芸能...。
落語でも歌舞伎でも能でも文楽でも、すべからく原典があって成立する。
たまに枝雀師匠や三枝師匠(現:六代目桂 文枝)などの現代落語や、
三代目猿之助が始めたスーパー歌舞伎なんてのもあるけど、古典芸能は繰り返し演ずる美学がある。


閑話休題...。

村上春樹が4月の新作の前に出したのが、「パン屋を襲う」(新潮社刊)である。


この作品、来歴が少し面白い。

そもそも彼は自分の作品を改稿する場合が良くある。
小説家が新聞で連載した小説を書籍化する際に改稿するのは、割とよく目にする。
漫画家も単行本になる時に少し手を加える時がある。
恐らく締切に追われて書くのと時間をおいて読み直すのでは、後に残る作品だけに気になるのだろう。

LIVE盤と言われるALBUMも実際に録音した音を差し替える場合がある。
これも同様の理由だと思う。

でも「パン屋を襲う」は、この改稿以上に不思議な来歴がある。

そもそもこの小説の元になったのは、
1981年の『早稲田文学』に掲載された短編「パン屋襲撃」だった。
玉下は偶然この時に読んでいる。
しかし如何せん雑誌に掲載された短編で、いつの間にか記憶から消え去る。
(当時の村上春樹の存在だって今とは全く違っていたし...)

で、この「パン屋襲撃」の後日談を書いた小説が「パン屋再襲撃」。


これは1985年の『マリクレール』に掲載されたそうだが、
さすがに玉下はそこでは読んでおらず、1986年に短編集「パン屋再襲撃」(文藝春秋社刊)で初めて読んだ。
つまり後日談を読んだときに不思議な既視感、いや既読感を抱いた。
でも既に村上春樹のファンになっていたので、出版されている書籍はすべて読んでいる。
なのに既読感を解消してくれる短編はどこにも収録されてない。

この既読感が晴れたのは、1991年に『村上春樹全集 1979~1989』(講談社刊)が出たから。
この全集の8巻で初めて「パン屋襲撃」を読んだ人も多かったと思う。

つまり本来の順序とは逆に、後日談が先に世間に広まったわけである。
大半の読者は後日談の中で語られる主人公の若い頃のエピソードを、
単に後日談を後日談たらしめるための架空のプロットと思って読む。
しかし実際はちゃんと雑誌に掲載をされている話だった。

そして今年の2月。
この「パン屋襲撃」と「パン屋再襲撃」が、ようやくSingleのA/B面の様に1冊にまとまった。
しかもお得意の改稿である。
まだオリジナルと読み比べたわけではないが、こんな事をしながら4月の新作を待っている。


   wrote by 玉下奴郎

PS そしてGQ VIIにはまだ手をつけていない...。
PS なんと「パン屋再襲撃」は映画化されていた!
  嗚呼、観てみたい。
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この記事へのコメント

- 編集長 - 2013年03月11日 20:53:26

「パン屋襲撃」の原作は知らないのですが、自主制作された映画は大学時代に観ました。
革命うんぬんと思想めいたところが鼻につくのですが、とても面白かったです。
それから20年後、DVD化されました。
買って見たら女優が室井滋だったのでビックリしました。

ちなみに大学時代観た同時上映作品は、大友克洋「じゆうを我等に」でした。
懐かしい思い出がよみがえって来たのでコメントしました。

- 玉下奴郎 - 2013年03月12日 15:42:54

編集長様

室井滋さん、「100%の女の子…。」の映画化で主演されていたのは知ってたんですが、
「パン屋…。」にも出演されていたんですね。
今の彼女のキャラからは想像つかないくらい、
“イイ女”のイメージだったみたいで、
映像を観てみたいなぁ。


有り難うございます!

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